本来なら、今回はポインタ解説記事の第4回目を書くはずだったんですが、前から個人的にやってたテキスト分析が終わりまして、それを公開しようと思ったんで、今回はポインタ解説でない記事になってます。
1年半くらい前に「PSYCHO-PASSの感想文をテキスト分析してみた」みたいな記事を書いたことがあったんですが、その記事の内容が結構めちゃくちゃだったので、前々からリベンジしたいなぁと思っていました。
で、そんなときに大学卒業の卒論が書き終わるちょっと前に気になることが出てきました。その”気になること”がちょうどテキスト分析で解決できそうなことだったので、卒論が書き終わるや否や、とりかかっていました。
(大学の卒論を書き終わったら、すぐさまこの分析に取り掛かったんですが、やってる途中で「あれ、なんで卒論を書き終わってから研究やってるんやろ?」って気分になってたりしました笑)
途中、考慮すべきことを考慮していないというミスに気づいたり、根拠がない論理を組み立てていることに気づいたりで結構時間がかかってしまったんですが、なんとか完成させることができたんで、ここで公開しようと思いました。
それで、すでにお気づきの方もいらっしゃるでしょうが、このヘッダー部分に一つ項目を追加しました(「ホーム」とか「プロフィール」「お問い合わせ」とかが並んでるところです)。「Akitoの分析レポート」という項目です。
そこで僕の今後の分析レポートなんかを公開していこうと思ってるんで、よかったら覗いてみてくださいませ~。今回はその記念すべき第一回目の分析レポートということになりますね。
分析レポートの最初はテキスト分析のレポートになります。テキスト分析の具体例としても使えるでしょうし、テキスト分析を進める上でどう考えればいいのかなんかも勉強できるんじゃないでしょうか。
ではでは~
……と終わってもいいんですが、それだけだと少し寂しい気もしたので、軽く解説を(無駄に労力を使うDataminer)。
そもそも何を知りたいのか
元々何を知りたくて、分析の結果どんなことが分かったのかという要点だけを軽く説明しますが、あくまで分析の概略なので、詳しい議論を知りたい方、ご自身の分析能力を高めたい方は分析レポートの方を見てくださいませ~。
僕は伊藤計劃の『ハーモニー』という作品が好きなんですが、そのAmazonレビューを見たことが今回の分析の発端になってます。
Amazon内ではアニメ版とその原作となった同名の小説の両方とも扱われているんですが、僕が気になったのはアニメ版の方のAmazonレビューです。
何が気になったかというと、アニメ版の感想文の中には原作小説からの改変や情報削減に触れている文章があったということです。僕の印象ではありますが、改変や情報削減によって、内容が分かりにくくなっているという文章が多かったです。
もし本当に改変や情報削減があったとすれば、それによって原作読者の感想とアニメ版視聴者の感想との間には違いが見られるはずです。
つまり、原作読者の感想とアニメ版視聴者の感想との間にはどんな違いがあるのかを調べたいということですな。
そこで、Filmarksと読書メーターという2つのプラットフォームに投稿された感想文をKH Coderでテキスト分析することでその違いを調べようとしました。
分析結果
書いてたらめちゃくちゃ長くなっちゃうので、具体的にどんな分析をしたのかは分析レポートの方を読んで頂きたいんですが、分析結果をざっくりと紹介します。
KH Coderにはクロス集計機能があるんですが、その機能を利用して、「作品のテーマ」「物語」という2つの話題への言及頻度を調べました。「作品のテーマ」はそのままなんですが、「物語」というのは主人公の名前や、物語進行上で起こる事件といった話題のことになります。
その結果、Filmarksに投稿されていた感想文では読書メーターよりも「物語」に言及する割合が有意に高く、逆に読書メーターに投稿されていた感想文ではFilmarksよりも「作品のテーマ」に言及する割合が有意に高いということが分かりました。
このことから、原作の方が「作品のテーマ」という話題が伝わりやすくて、「物語」に関する話題はアニメ版の方が伝わりやすいのではないかということが考えられます。
まぁ、これは当然と言えば当然のことかもしれません。
ですが面白いのは次に分かったことです。先ほど、「作品のテーマ」によく言及していたのは読書メーターの方だったとお伝えしました。ところが、その内容を細かく見ていくと、「作品のテーマ」であっても、Filmarksの方が多く言及していた話題がありました。
それは「ディストピア」に関する話題です。
ディストピア以外の話題(例えば「ユートピア」や「人間の内的活動」など)に関しては読書メーターに投稿された感想文の方が多く言及していたのですが、こと「ディストピア」に関しては読書メーターに投稿された感想文でもFilmarksに投稿された感想文でも言及割合が変わらなかったのです。
このことから、アニメ版での改変・情報削減は「作品のテーマ」を総じて切り落とすようなものだったけど、「ディストピア」に関する情報量は原作と変わらなかったのではないかと考えられるわけです。
より正確には、「ディストピア」に関する視聴者の体験は原作読者のそれと比べて遜色ないと考えられます。
分析結果の中でも僕が特に面白いと感じた部分を抜き出すとこんな感じになります。個人的には、「作品のテーマ」への言及が少なければ「ディストピア」への言及も少ないだろうと思っていたので、この結果は意外で面白いと感じましたね。
この結果から、「アニメ版を観たとき、原作を読んだ人は不満が残るかもしれないけど、原作を読んでいない人は楽しめるかもしれない」とも考えられます。
まぁ、人によって分析結果の解釈とか考察なんかは変わるでしょうから、あくまでも一解釈にすぎませんが。
この結果からすれば、まだ映画版『ハーモニー』を見てない人はまず映画版を観てみるのがおすすめです。で、興味を持てたらその後に原作を読んで頂ければと思います。
ちなみに、映画に関するこちらの研究では、”prepper”な映画(いわゆるホラーとか終末論とかを映画居たような映画)を好む人は、パンデミックみたいな状況下でも心理的なストレスに強いって結果が出てたりするんで、この機会に『ハーモニー』を見てみてはいかがと思います。
『ハーモニー』も”prepper”な映画の一つとして考えられるんで。
特に、この研究ではコロナウイルスに対する心理的ストレスを調べてるんで、ちょうど良いのではないかと。
アニメ版はこちらから。
小説版で読みたい方はこちら。
P.S. あんまり書くとネタバレになりかねないので、あまり書きませんが、個人的には、『ハーモニー』で描かれたような「誰もが誰もを思いやって住みやすい世界、医療が発達して様々な病気が無くなった世界を徹底しようとするような社会はディストピアに等しい」ってテーマが面白いと感じましたね~。
そういう社会を実現しようとすると、人間的に無理が出てきて逆にディストピアになってしまうってのが作品内で描かれていました。理想を実現しようとすると理想から遠ざかるという逆転の構造が個人的には好きでした。
P.P.S. ちなみに、この記事のサムネイルで『ハーモニー』にぴったりな色をした植物はアーモンドです。アーモンドと言えば健康食品のイメージが強いですよね。では、花言葉は?