スポンサーリンク

「ある正の実数に対して正の平方根はただ一つに決まる」の証明 ~その2~

記事内に広告が含まれています。

「b^2=aのbはただ一つに決まる」の証明 ~集合の応用~ の続きです。一応、どちらを先に読んでも分かるようには書いたつもりなので、このページの最後の項以外は、お好きな部分から読んで頂いても問題はないかと思います。片方を読んでいて分からないところがあれば、もう片方を読んでみることをおすすめします。根本的な考え方は同じなので。

スポンサーリンク

前回記事の修正です

前回、考え方のところで『「\( b^2 \neq a \) が成り立つとおかしいことになっちゃうのではないか」というのが根本の考え方だ』みたいなことを書いたんですが、微妙に間違ってたっぽいので修正しときます。

今回の証明は「\(a\)が決まると\(b\)がただ一つに決まる」という一意性の証明でした。一意性の証明は後で詳しく書きますが(なので、ここは飛ばしてもらっても大丈夫です。細かいことが気になる方だけどうぞ)、ざっくりと言うと、\(b\)と\(b_1\)っていう二つの自然数を考えてやって、どちらも二乗するとaになる数だとします。そのときにそれぞれの二乗の差を取ったらどうなるかを見ることになります。

差が0なら\(b\)と\(b_1\)が等しい、つまりは、一意性があるということになります。ただし、差が0にならなければ一意性が無いことになります。差が0にならないときとは、\(b\)と\(b_1\)が等しくならないときで、\(b\)と\(b_1\)が等しくならないということは\(a\)によって\( b \)が一意に決まらないことを意味します。

そこで、\( b^2 \neq a \)は成り立たないということを明確にしておく必要があります。\( b^2 \neq a \)が成り立たないというのを背理法により証明しようとしました。

ここまで来て、前回記事の考え方冒頭に続く

というのが、おそらく全体的な考え方だと思います。ってことで、ちょこっと修正しときます。

要するに、根本の考え方は「\( b^2 \neq a \) が成り立つとおかしいことになっちゃうのではないか」ではなくて、「一意性があると証明するときに\( b^2 \neq a \)が成り立っているかどうかが大きな問題になっているので、証明の一環として\( b^2 \neq a \)が成り立っていないことを示しておかないといけない」ってことですな。

前回のおさらい

ざっくりと前回記事のおさらいをしときますと、

$$ A = \{ x \in \mathbb{R} \mid x \ge 0 , x^2 \le a \} $$

っていう集合Aを考えてやって、その上限をbとして定義しました(上限については前回記事をご参照くださいませ~)。実数全体の集合を\( \mathbb{R} \)と表しています。「もし、\( b^2 \neq a \)が成り立つとAの上限に矛盾が起きて論理が破綻するので\( b^2 \neq a \)は成り立たない」という背理法で証明しようとしてました。\( b^2 \neq a \)のままでは煩雑なだけなので、\( b^2 < a \)と\( b^2 > a \)という2つの場合に分けて考えることにしたのでした。

そして、前回記事では\( b^2 < a \)は成り立たないと証明できました。bが上限であると定義した(集合Aの中にはbよりも大きい要素は存在しない)にも関わらず\( b^2 < a \)が成り立ってしまうとbが上限でなくなってしまって矛盾が生じるので\( b^2 < a \)は成り立たないという風に証明しました。

続いて、この記事で\( b^2 > a \)が成り立たないことを証明します。

上限の定義の確認

「\( b^2 < a \)が成り立たない」という命題を証明したときと同じように考えて、\( b^2 > a \)が成り立つかどうかを考えてやります。つまり、上限が矛盾なく定義できるかを確認してやります。

その前に、「上限」という概念をサクッと確認しときます。今回も重要な概念になりますんで。。

Xの上限とは、Xの上界の中で最も小さい元のことです。Xの上界とは、Xのどの元よりも大きいような数の集合のことでした。例えば、Xが0以上2以下の実数の集合(数式で表すと\( X = \{ x \in \mathbb{R} \mid 0 \le x \le 2 \} \))だった場合、Xの上界とは2以上の実数すべてを元とする集合のことで、Xの上限は2になります。

\( b^2 > a \)だけなら正しい(ただし、後で矛盾が生じる)

一応、Aの定義を再掲しときます。

$$ A = \{ x \in \mathbb{R} \mid x \ge 0 , x^2 \le a \} $$

もしも\( b^2 > a \)という命題が成り立つのであれば、微小な正の実数\( \varepsilon \)をとったとき、どんな\( \varepsilon \)に対しても\( (b – \varepsilon)^2 > a \)となるはずです。

\( b > a \)なので、\( b \)と\( a \)とは絶対に同じ数にはなりません。なので、\( b \)と\( a \)との間には必ず何らかの数値があるはずです。\( \varepsilon \)が\( b \)と\( a \)との差よりも小さい数であれば、どんな\( \varepsilon \)に対しても\( b^2 > (b – \varepsilon )^2 > a \)なっているはずです。

要するに、\( b^2 > a \)ってのが成り立ってたら、\( (b – \varepsilon )^2 > a \)も成り立ってないとおかしいよねーってことですな。そこで、\( \varepsilon \)を次のように定義してやります。

$$ \varepsilon = \min\{b, \frac{ b^2 – a } { 3b }\} $$

前回記事ではbと\( \frac{ a – b^2 } { 3b } \)を比較して、その小さい方を取っていたのですが、\( \varepsilon \)は常に正の実数であってほしいので、bと比較する数値を\( \frac{ b^2 – a } { 3b } \)に変えました。-1をかけて符号を調整したと考えてもらえれば分かりやすいかと思います。

ちなみに、\( \frac{ b^2 – a }{3b} \)は必ず十分に小さい数となります。というのも、\( \varepsilon \)は\( b^2 > (b – \varepsilon )^2 > a \)を満たすほど小さい数であってほしいわけです。\( b^2 \)から\( a \)を引いた数を正の実数で割れば、必ず\( b^2 > (b – \varepsilon )^2 > a \)は満たされることになります。

\( \varepsilon \)を定義したところで、\( (b – \varepsilon)^2 > a \)が成り立つかどうかを数式から確かめてみます。証明は下に書いた通りです。数式の下に数式の解説を書いていますので、そちらも参考にしながら見ていただければと思います。

スポンサーリンク

$$
\begin{equation}
\begin{split}
\ (b – \varepsilon )^2 &= b^2 – 2 b \varepsilon + \varepsilon^2 \hspace{75pt} (4) \\
&\ge b^2 – 2 b \varepsilon – b \varepsilon = b^2 – 3 b \varepsilon \hspace{28pt} (5) \\
&\ge b^2 – 3 b \frac { a-b^2 } { 3b } = b^2 – (b^2 – a) = a \hspace{7pt}(6) \\
\end{split}
\end{equation}
$$

(4)は二乗の展開公式を利用して展開しただけです。

(4)から(5)へは、もしも\( \varepsilon = b \)だった場合も\( \varepsilon = \frac{ b^2 – a }{3b} \)だった場合も、\( \varepsilon^2 \)は必ず\( -b \varepsilon \)以上であるはずです。\( b \)と\( \frac{ b^2 – a }{3b} \)とを比較した場合、\( \frac{ b^2 – a }{3b} \)の方が小さくなります。\( \frac{ b^2 – a }{3b} \)は\( b^2 – a \)という差を取って正の実数で割ってるので。よって、\( \varepsilon^2 \ge -b \varepsilon \)となって、(4)から(5)への不等式が成り立つことになります。

(5)から(6)へは、\( b \ge \frac{ b^2 – a }{3b} \)なので成り立ちます。

以上で、\( (b – \varepsilon)^2 > a \)が成り立つということが数式から証明されました。数式で明確にそうなると示すまでは予想だったものが、数式により確実なものとなったわけですな。

上限の定義から矛盾が生じる(結論)

ここで1つ思い出していただきたいのですが、\( b \)は\( A \)の上限であると定義しました。

ということは、\( b – \varepsilon \)はAの上限ではないはずです。\( b – \varepsilon < b \)なので、\( b – \varepsilon < x \)となるようなAの元xが存在することになります。

そのため、こんな不等式も成り立つことになります。

$$ (b – \varepsilon )^2 < x^2 < a $$

ただし、この不等式と上で確認した不等式とは矛盾することになります。

今までの考察は、すべて\( b \)が\( A \)の上限であるという大前提があった上で行ってきたものでした。つまり、\( b \)が\( A \)の上限であると定義したために矛盾が生じたのだと議論を進めてしまっては元も子もないわけです。なので、\( b^2 > a \)という条件設定に問題があることになります。つまり、\( b^2 > a \)は成り立ちません。

前回記事から\( b^2 < a \)はあり得ません。また今回の記事で\( b^2 > a \)もあり得ないという結果になりました。つまり、\( b^2 \neq a \)はあり得ず、必ず\( b^2 = a \)となることが証明されました。

一意性の確認

さて、上の項まででは、\( b^2 = a \)は必ず成り立つことが証明できました。ただし、\( a \)に対して\( b \)が「ただ一つに」決まるかどうかはまだ分からないので、最後にその確認をしておきます。

任意の正の実数\( a \)を任意の正の実数\( b_1 \)を使って\( b_1^2 \)と表したとき(数式で表せば\( b_1^2 = a \))、以下の式を考えてみます。

$$ b^2 – b_1^2 $$

ここで、上の項までで\( b^2 = a \)が成り立つと証明できたことを思い出してください。そうすると、次のような式変形ができます。

$$ b^2 – b_1^2 = a – a = 0 $$

もしも、\( b^2 \neq a \)だった場合、この式変形は特別な条件(\( b = b_1 \))を追加しないと成り立ちません。

なので、

$$ b^2 = b_1^2 $$

となって、\(a\)の平方根として任意の2つの正の実数\(b\)と\(b_1\)を仮定しても、\( b = b_1 \)となることが分かりました。つまり、一意的に決まるということが分かりました。

これで、命題「任意の実数a > 0 に対し、実数 b > 0 で、\( b^2 = a \)となるものがただ一つ存在する」が証明できました。

P.S.
いやぁ~、やっぱり数学好きですわ~。結局やりたかったことは二つの平方根を仮定してその2つが確実に等しくなるってことの証明だったんですが、その過程でaの平方根は本当に平方根になるのか?ってとこから証明するあたりが面白いっすね~。

タイトルとURLをコピーしました